『刑事ダルグリッシュ』は、イギリス発の人気刑事ドラマです。詩人でもあり、妻子を亡くしたダルグリッシュ刑事中心に事件を解決に導いていきます。『黒い塔』は、海岸にひっそり建つ身体障害者用療養所が舞台。キャスト、前編・後編あらすじ、解説、原作者P・D・ジェイムズの生い立ちなどを解説します!
刑事ダルグリッシュ 黒い塔のネタバレなしあらすじ(前編)
舞台は人里離れたところの建つ身体障害者用療養所〈トイントン・グレンジ〉。ここに勤めるマイケル神父と刑事ダルグリッシュは友人同士で、2人は週末に会う約束をしていました。
ところが刑事ダルグリッシュが訪ねてみると、マイケル神父は心臓発作ですでに亡くなったとマギーから聞かされます。その少し前も、入居者の一人が車椅子に乗ったまま崖から転落して死亡していました。
短い間にこの小さな療養所で2人も亡くなっていることを不審に思った刑事ダルグリッシュは、職員や入居者から聴き込みを開始します。
すると匿名の中傷手紙がマイケル神父や一部の入居者に届いていたこと、マイケル神父は亡くなる少し前デニスと口論していたことなどが発覚します。
同時に職員や入居者の関係性、置かれている立場も分かってきます。エリック&マギー夫妻は仲が悪そうです。さらにエリックは看護師ヘレンと何かありそうな雰囲気。
黒い塔で不審火も発生し、ますます混乱します。崖から転落した入居者とマイケル神父の死の真相は?入居者は全員車椅子のため、職員を中心に推理を進めていきます。
そんな中、別の入居者が襲われます。
刑事ダルグリッシュ 黒い塔のネタバレなしあらすじ(後編)
別の入居者の不審死にも関わらず、ウィルフレッド所長は予定通り明後日巡礼に出発すると言います。
彼は、ヘレンが以前勤めていた福祉施設からの買収オファーと受け入れるとし、買収後も精神的指導者として留任するのかを、職員と入居者全員に投票させるとも。
エリックとヘレンはウィルフレッド所長の留任を望んでいないようです。マギ―はこの投票権利が与えられなかったために激怒。
エリックとヘレンの怪しい関係に気づいていたこともあり、荷物をまとめてこの療養所から出て行こうとします。しかし同じ日に、新たな悲劇が起きます。
事情聴取する中で、マイケル神父と、別の入居者の死の第一発見者であるヘレンが怪しいと刑事ダルグリッシュは思っていました。2度も死の第一発見者になるなんて、何かありそうです。
しかし外務省からの情報や意外な所から出てきた刑事ダルグリッシュのボールペンから、マイケル神父やビクターらの死の真相が見えてきます。
そして中傷手紙の犯人も明らかになります。ウィルフレッド所長が病気から再起したのは嘘だと言う話も。腐敗しきったこの療養所のどす黒い真実が明らかにされます。
刑事ダルグリッシュ 黒い塔の解説 グレースが狙われた意外な理由とは?
殺害された別の入居者はグレースでした。刑事ダルグリッシュもグレース殺害の動機は一体なんだ?と行き詰ってましたが、彼女のおしゃべり好きと記憶力の良さが裏目に出たのですね。
刑事ダルグリッシュとグレースが会話してるところを見たウィルフレッド所長は、「おや、グレースと話しを」と言います。
自身の正体や麻薬密輸を匂わせるような発言をポロっと刑事ダルグリッシュに言ってしまうことを恐れていたんだと私は思います。70件近い会報誌の宛先を全て暗記していたのも不運でした。
暗記が無理で何かしらに宛先を記録していたら、その記録を破棄するだけで麻薬密輸の証拠消しになったものが、グレースの頭の中に記録されてたために彼女を消す必要があったんですね。
それでもベッドの下に落ちた押し葉をちゃんと本に挟み直しておけば、検死では他殺じゃないとの結果だったのでグレースに関しては完全犯罪が成立していたかもしれません。
グレースはマイケル神父に告解した後、彼が司祭服から着替えたことを覚えており、それを刑事ダルグリッシュに伝えたのも、彼がマイケル神父の死因を怪しむきっかけとなりました。
マギー殺害も、密輸の件をダルグリッシュ刑事に腹いせに暴露されるのを阻止するためですね。自殺じゃないと刑事ダルグリッシュが確信したのはの、自身のボールペンをマギーの鞄の中に発見した時ではないでしょうか。
自殺しようという人間が、思い出に何かを持ちたいなんて思わないですからね。
黒い塔で不審火が起きてもウィルフレッド所長は警察への通報を拒みました。麻薬の件が何らかの形でバレるのを警戒してたのでしょう。
しかもウィルフレッド所長は、そもそも歩けないような病気になっていなく、入居者を繋ぎとめるために付いた嘘でした(彼の話を信じていればですが)。
ジュリアスは最後の最後で「口座を作って姿を消す」と言ってますし、エリックとヘレンもこの療養施設が買収された後は乗っ取ろうとしている様子でした。
最終的にどう転んでも、この療養施設はもうウィルフレッド所長の支配下にはならなかったのではないでしょうか。
刑事ダルグリッシュ 黒い塔のキャスト
★刑事★
①アダム・ダルグリッシュ刑事(バーティ・カーベル)…ロンドン警視庁犯罪捜査課。高い知性と鋭い洞察力の持ち主、詩人でもある。妻は初めての赤ちゃん(男の子)を分娩中に死亡し、赤ちゃんも間もなく死亡した。
②ミスキン巡査部長(カーリス・ピア―)…アダム・ダルグリッシュ刑事の部下で、彼から信頼されている。
★職員★
① マイケル神父…刑事ダルグリッシュの友人。彼と会う約束をしていたが心臓発作で他界してしまう。
② ウィルフレッド所長…この療養所の所長でやや威圧的。半年ごとに入居者と職員で行く巡礼をとても重要視している。
③ ジュリアス…ウィルフレッド所長の旧友でこの療養所の会計業務を手伝っている。元外務官でマルセイユに駐在経験あり。
④ エリック…医師でマギーの夫。
⑤ マギー…エリックの妻。ビクターと唯一気が合う人物。
⑥ ヘレン…看護師で、親戚が経営する福祉施設の元職員。★実生活でバーティ・カーベルの妻
⑦ デニス…人見知りな性格。ビクターからきつく当たられている。母が入所している高級介護施設からの転職オファーを断っている。
≪入居者≫
① グレース…鶏の世話や会報の発行と発送を担当。70件近い発送先住所を全て記憶している。マイケル神父が死亡する前に会った最後の人。
② ビクター…意地悪だがマギーとだけは気が合う。職員のデニスをいじめていて、この療養所の秘密をばらすと言っている。
③ ヘンリー…療養所として販売している保湿クリームの製造や梱包をしている。過去にこの療養所に入所していた男性と恋人同士になり、それをビクターから罵られた。
④ アーシュラ…既婚者の女性。夫と一緒に暮らすのを望んでいる。
⑤ ジェニー…死刑の話を面白がるダークな面がある女性。
刑事ダルグリッシュ 黒い塔の原作者 P・D ジェイムズはどんな人?
P・D ジェイムズのプロフィール、生い立ち
P・D ジェイムズは1920年イングランドのオックスフォードで生まれ、2014年に94歳で死去しました。
税務調査官だった父は、いつも食事を一人で食べる家族への愛情の薄い人だったと語っています。
当時を振り返りこんな発言を。
「子供の頃はいつも怯えていたわ。家族のそういう状態が爆発して間違った方向に進んでしまうんじゃないかという恐怖心と共に生きていた。」
P・D ジェームズが14歳の時に母が重度の更年期障害で入院したため、通っていた女子高を中退し、働きながら家事や弟妹の世話をしていました。母が回復することはありませんでした。
21歳で医学部生と結婚し2人の娘が誕生したが、夫は戦地へ。帰還するも、戦時中のPTSDがあまりにひどく、精神病院に入院。その後、夫は退院することなく生涯を終えています。
夫が働けない状況の中、P・D ジェームズが一家の大黒柱となり国民保健サービスや内務省、刑事政策部署で働きながら娘2人を一人で育てました。
病院管理の学位を取るため夜間学校に通って仕事後には勉強。そんな努力の甲斐あって経済的な余裕が生まれ、40歳になってから本格的に小説を書き始め、生涯で20の物語を執筆しました。
P・D ジェイムズの作品の特徴
英国国教会主義への忠誠心の一つとして、信仰深い登場人物を必ず一人入れるのも特徴です。『黒い塔』では、グレースがその登場人物かと私は思います。
病院や官僚制を舞台に複雑で多面性を持つ登場人物をきわめて緻密に書き上げるのも特徴。派手さはない分、人間の奥深い心理を映し出す作品が多いと私は思います。
例えストーリーは私たちの日常と大きくかけ離れていても、心理面だけでも共感できると私は思います。同類ドラマとの相違点は、死体を映す時間が長めで、検死のシーンがほぼ必ずあることです。
それだけ人の死をデリケートに、重く扱っていてることかと私は思います。病院勤務経験が長いP・D・ジェイムズ。多くの人の死の場に立ち会ってきた彼女ならではの表現方法なのですね。
初の出版本は42歳の時の『女の顔を覆え』で、未婚女性のためにホームを運営する女の死を捜査するストーリー。ダルグリッシュシリーズとして1985年にテレビドラマ化されました。
14のストーリーが刑事ダルグリッシュシリーズとしてテレビドラマ化されています。『女の顔を覆え』の刑事ダルグリッシュ役はロイ・マースデンでした。
・刑事ダルグリッシュ役のバーティ・カーベルはどんな俳優?生い立ちや出演作品はこちらから!
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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