31歳のソフィがビデオカメラを再生するところで始まるこの映画。「11歳の時 将来何になると思ってた?」の質問のところで早送りした時、彼女はどんな気持ちだったのでしょう?辛さや孤独感を娘の前では隠していた父、それを大人になって目の当たりにした娘。「あの時分からなかったことが今なら分かる」が切なくて号泣の映画です。ラストダンスシーンと空港見送りシーンは繋がっています!護身術を教えた理由とは?など考察しました。どうぞ最後までお読み下さい!
アフターサンはつまらない? ラストを2部構成で考察すると面白い!
ラストシーンはやや分かりにくいですね。2部に分けて1部づつ考察していきます。
カルムとソフィとのラストダンスのシーン
このシーンのポイントは2つあり、1つ目はカルムが2つの空間を行き来すること、2つ目はカルムは最終的には11歳のソフィがいる空間に戻ってきたことです。
2つの空間とは、11歳のソフィがいる「生の空間」と、31歳のソフィの「思い出の空間」。
カルムの迷いを表すシーンです。ただトータルでは「思い出の空間」の方に長くいました。やはりカルムにとってこのまま生き続けるのが辛かったのでしょう。
ストロボの「思い出の空間」に31歳のソフィが出てきてカラムに言葉を掛けたり、強くハグしたりと、この辺り解釈は人それぞれですが、私はこんな風に解釈しました。
「思い出の空間」でウロウロしているカルムに、「何してるの!早く11歳のソフィのところに早く戻りなさい!」と31歳のソフィが現れて怒ります。
一瞬だけその通りにするカルムですが、再び「思い出の空」に戻って来てしまいます。31歳のソフィは、父カルムの辛さや孤独を大人になった今では分かっています。
そんなに辛いなら仕方ないのか、となりカルムとハグし合うのですが、でもやっぱり戻るべき!となり、後ずさりしてカルムに11歳のソフィの元に戻るように促します。
カルムは動揺した表情を浮かべますが、後ずさりして11歳のソフィの元に戻ります。それを「ちゃんと戻ったかな」とソフィが後ろ髪引かれる思いで見つめます。
カルムが最終的に11歳のソフィの空間に戻る時、わずかに波の音がします。ソフィともっと一緒にいたい、と父として当然思うわけですね。
私は、31歳のソフィとハグしている(ソフィに抱かれている?)時のカルムの表情がまるで母の腕の中で眠る赤ん坊みたいだと思いました。生涯それをずっと求めていたような。
繰り返しですが、このラストダンスシーンでは、カルムは11歳のソフィのいる空間の「生の空間」に戻って来ました。
「思い出の空間」では、カラムはストライプのTシャツを着ていました。これは翌日にも着ているTシャツ。このラストダンスシーンは、翌日の前章だったのかもしれません。
カルムがソフィを空港に見送りに行くシーン
ラストダンスの翌日は、ソフィを空港に見送りに行くシーンです。カルムは名残惜しくて寂しそうな表情のソフィをカメラに収めています。
ついに見送った後、カメラは空港の廊下から水平に移動して31歳のソフィと彼女のアパートが映り、そして再びカルムがいる空港の廊下が映ります。
このシーンを観たとき思い出した言葉が、11歳のソフィが言った「同じ空の下にいるのなら一緒にいるのと同じ」。「私たちは繋がっている」と2人が言っているように私は感じました。
そしてラストのラスト、空港の廊下にいるカルムはドアに向かって歩き出します。ドアの向こう側は昨日のストロボ空間です。
そして、今回はそこから出てきませんでした。完全にソフィの「思い出の空間」に行った、ということでしょう。
Tシャツの件ですが、昨日ストラボ空間で踊っていたカルムは、翌日(空港見送りの日)からタイムスリップしていたと思います。心この世にあらず、という感じでしょうか。
アフターサン 考察 31歳のソフィの視点 護身術を教えた理由は?
ラストシーンの考察から始めましたが、ここで31歳になったソフィの視点を見ていきます。父が1人でいた時はこんな言動を取っていたのではないかと想像するシーンです。
11歳の時に見た父の「?」が、20年経った今、答え合わせのように分かってきます。ソフィに取っては辛い発見の連続。
太極拳をあんなにやっていたのは、鬱を少しでも軽減させるため。改善したい意志があったのは間違いない。だからこそこの結末になって悔しい。
高価は絨毯は私へのプレゼントだった。お金に余裕がなかったのに、私への最後のプレゼントだから迷ったけど大奮発した。
父が母と電話で話した内容は描かれていませんが、母は「再婚する」と言ったのでは?父は「良かったね 僕もうれしいよ」と返していましたし、結構喜ばしい内容だったはずです。
この後、駄々をこねている小さい男の子が厳ついお父さんに担がれながら叱られている場面をじっと見る父のシーンが続きます。 護身術を知っていれば、ソフィの継父になる人が暴力的だったとしてもある程度は身を守れる。父としての愛情表現の一つですね。もしくは父の親は暴力的だったかもしれません。 |
護身術のレクチャーをしていた父は真剣そのもの。日焼け止めクリームの塗り方にこだわっていた。ちゃんと塗らないと後でヒリヒリするから、と思ってうるさく言ったんだね。
親からも誕生日を忘れられ、故郷に戻りたくないと思うなんて、一体どれほどの孤独感と疎外感を持って生きていたのだろう?
「エンゲージ」や新しいビジネスは、あの旅行後ほどなくして自ら命を絶ったということは、彼女とは恐らくエンゲージしなかったし、ビジネスは具現化しなかった。
真っ暗な海に向かって確かな足取りで歩いたり、ベランダのフェンスの上に立がったり、1人咽び泣いたり。
旅行初日の夜、その日に収めた私のビデオを1人こっそり見ていた父。旅行に来る前から、父にとってはこれが私との最後の夏休みにすでになっていた。本当に、ギリギリの精神状態だったんだ。。。
こんな風にして父の辛さが分かってくる。だから「11歳の時 将来は何してると思ってた?」と聞いてしまった時、回答に困った父を見るのが辛くて思わず早送りしたのですね。
アフターサン あらすじ、私の感想
11歳になったばかりのソフィは、離れて暮らす父のカルムと一緒に夏休みを過ごすためトルコのひなびた海の近くのホテルに来ていた。4泊5日の小さなバカンスだ。
両親は離婚しており、ソフィは母とスコットランドに暮らし、父はロンドンに住んでいる。ホテルでは特に何をするでもなく、プールや海で泳いだり、ダイビングしたり、ゲームをしたり。
もうすぐ31歳になる父が持ってきたビデオカメラで父にインタビューした。父もソフィが楽しんでいる姿を撮った。
ちょっとしたケンカはしたけど、父と2人だけの夏休みはこれからも来るとソフィは思っていた。バカンス中に31歳の誕生日を迎えた父にサプライズでプレゼントをあげた。父は喜んでいると思った。
それから20年後、あの夏休み中に父がプレゼントしてくれたトルコ絨毯、そして父が持っていたビデオカメラは今はソフィの物だ。
あの夏休みの時の父と同じ年になったソフィは、父に複雑な気持ちを抱きながらも思い出がつまったビデオカメラを再生する。そこには11歳だったソフィには見えていなかった父の姿があった。
ストーリーもさながら、撮り方や時空の扱い方が絶妙な映画ですね。そして想像しなきゃいけないシーンの多いこと!まさに”Show. Don’t tell”の王道です。忘れた頃にまた観たくなる映画ですね。
ソフィを演じたフランキー・コリオは800人の応募者から選ばれた若き才能。演技がナチュラルすぎて気づいたら私も映画の世界にいました。
カラムを演じたポール・メスカルはアカデミー賞主演男優賞にノミネート!1996年生まれの期待の若手俳優です。ポール・メスカルのプロフィールや新作映画情報をまとめました。こちらからどうぞ!

今日も最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント